高リスクの病気「肺炎」 〜その正体と予防方法について〜

肺炎で亡くなるのは年間約12万人

ここ数年、相次いで著名人が肺炎で亡くなっています。かつては、ガン、心筋梗塞などの心疾患、脳溢血などの脳血管疾患が主な死因だった印象があり、最近になって急速に肺炎が増えてきたように思われている方も多いのではないでしょうか。

ところが、改めて調べてみると、以前から肺炎は死亡率の高い病気でした。1980(昭和55)年に死因の第4位となって以来、増加傾向が続き、2011(平成23)年には脳血管疾患に代わって第3位となり、現在に至っています。

厚生労働省が発表した2015(平成27)年人口動態統計の年間推計によれば、死亡数の全体は130万2,000人で、主な死因別に見ていくと、
第1位 悪性新生物(ガン)/37万人
第2位 心疾患/19万9,000人
第3位 肺炎/12万3,000 人
第4位 脳血管疾患/11万3,000人、
と推計されています。

なんと、平成27年における全死亡者の9.4%を占めているほど。罹患すると極めてリスクの高い病気だといえるでしょう。さらに、肺炎で亡くなった人々のおよそ90%が65歳以上の高齢者であることも特徴です。

肺炎にはいくつもの種類がある

そもそも肺炎とはどのような病気でしょうか。大まかにいえば、細菌やウイルスなどが呼吸を通じて侵入し、肺が炎症を起こしている状態を指します。

せきや発熱、痰を伴い、苦しくて息が浅くなる・呼吸が速い・ぐったりする・食欲が無いといった、風邪に似た症状が表れます。そのため、初期の段階では、単なる風邪だと思ってしまう人も多いようです。

また、肺炎は、病変の部位によって、肺胞性肺炎と間質性肺炎に大きく分けることができます。
肺の構造について簡単に触れながら、その違いを説明しましょう。

吸い込んだ息は、まず気管を通ります。続いて枝分かれした気管支を通り、さらに枝分かれした細気管支を通ります。またさらに枝分かれして…と続き、その先にある肺胞と呼ばれる0.1〜0.2mm程度の丸い袋状の部分に行き着きます。肺胞は、息から酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を体外へ排出するという働きを行っており、それが細気管支や毛細血管と共に何億も集まって構成しているのが肺なのです。

肺胞性肺炎とは、肺胞に侵入した細菌やウイルスなどによって生じる炎症であり、一般的に「肺炎」と呼ぶのはこちらです。以降は、このページでも肺胞性肺炎を「肺炎」と記します。

一方、間質性肺炎とは、肺胞や細気管支、毛細血管を取り囲む間質と呼ばれる組織…特に肺胞隔壁に起こる炎症です。原因としては、薬剤、無機・有機粉じん吸入、膠原病などの全身性の疾患、原因が特定不能の場合があります。間質が炎症を起こすと、厚みを増し、肺の膨張・収縮を妨げます。慢性化すると、肺の線維化、つまり、肺が硬くなる状態になり、それに伴って肺活量が低下し、呼吸困難や呼吸不全を起こします。

肺炎は、原因となる病原体に応じて、下記のように分類されています。
〇細菌性肺炎/肺炎球菌・インフルエンザ菌・連鎖球菌
〇非定型肺炎/マイコプラズマ・クラミジア
〇ウイルス性肺炎/インフルエンザウイルス・麻疹ウイルス・水痘ウイルス
このうち最も多いのが細菌性肺炎で、中でも肺炎球菌による発症が全体の4分の1を占めています。

感染経路でも肺炎は分類される

また、感染する場所や環境によって、市中肺炎、医療・介護関連肺炎・院内肺炎といった分類もされています。

【市中肺炎】

市中=日常生活の場(病院・診療所以外の場)で感染した肺炎。急性が大半で、高齢者の場合は症状がはっきりしないことも少なくありません。主な原因は肺炎球菌ですが、風邪やインフルエンザの流行時季には、合併症として発症するウイルス性肺炎が増加します。

治療に関しては、細菌性肺炎にはペニシリン系やセフェム系などの抗菌薬、ウイルス性肺炎には抗ウイルス剤ですが、非定型肺炎の場合はマクロライド系やテトラサイクリン系やニューキノロン系などの抗菌薬を用います。このように治療法が異なるため、病原体が何なのかを突きとめなくてはなりませんし、判断できるようになるまでは日数もかかります。しかも、病原がはっきりとわかる症例は全体の半数程度で、残りの半数は類推しながら治療を進め、以降の症状や検査結果で推測していくしかありません。

したがって、風邪のような症状が長く続いたり、さらに悪化した場合には、肺炎の疑いがあるので、早期に検査を受けることをおすすめします。通院治療か入院治療が必要かの判断は、年齢、脱水症状の有無、酸素が足りているかどうか、意識障害があるか、血圧の低下があるかなどを総合的に判断して決定されます。若年層や体力のある人は通院治療で十分ですが、高齢者や何らかの疾患をお持ちの人は抵抗力(免疫力)が低下していますし、高熱が続いて食欲が落ちるので、点滴が必要になることもあり、入院治療が好ましい場合が多くあります。

【医療・介護関連肺炎】

市中と院内肺炎の中間の存在として、わが国の現状を踏まえて定義された肺炎。長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している、90日以内の病院の退院歴、介護を必要とする高齢者や身障者、通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫抑制薬等による治療)を受けている患者が対象となります。

誤嚥性肺炎、インフルエンザ後の二次性細菌性肺炎、透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎、免疫抑制薬や抗癌剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎などがあります。特に高齢者では、嚥下機能の低下があるので、誤嚥性肺炎のリスクが非常に高く、抗菌薬による治療に加えて、口腔ケア、リハビリテーションなども治療として重要です。

【院内肺炎】

何らかの病気の治療で入院してから48時間以降(※)に発病した肺炎。身体の抵抗力(免疫力)が低下している時に発病しやすくなります。見舞客や医療従事者(ドクターやナースなど)、職員、人工呼吸器、腸管からの細菌移動などから感染するのが主なケース。とりわけ、人工呼吸器が原因となる院内肺炎は、全体の85%以上で、人工呼吸器で吸入している17〜23%の方が肺炎を発症しているともいわれています。

病原体はその病院によって異なるだけでなく、同じ病院内でも異なることが多く、3種類の抗菌薬を併用する場合もあります。前述したように、他の病気で抵抗力(免疫力)が下がっていることから、肺炎の症状が悪化することも多く、死亡率は市中肺炎よりも高いそうです。加えて、高齢者は、様々な病原による肺炎発症リスクが高いために、治療自体が困難なことも珍しくありません。

※病原の特定のための目安。入院後48時間以前の発症は市中肺炎とみなします。

肺炎の様々な症状

肺炎は、風邪やインフルエンザに似た症状が表れるため、気づきにくいことも少なくありません。しかし、薬を服用しても症状が緩和されず、1週間以上は続くのが特徴で、さらに症状が悪化していきます。

下記に肺炎の症状を記します。
〇38度以上の高熱が続く(高齢者の場合は発熱しない場合もある)
〇痰の絡んだ激しいせきが続く(非定型肺炎の場合は乾いたせき)
〇黄色、緑色、鉄さび色の痰が出る 〇胸に痛みを感じる 〇呼吸が苦しく、速い
〇息切れする 〇食欲不振 〇全身の倦怠感 〇悪寒 〇頭痛 〇筋肉痛 〇関節痛

重症(血液中の酸素が欠乏した状態)
〇呼吸困難 〇チアノーゼ(顔やくちびるが紫色になる)〇脈が速い 〇意識障害

※その他、鳥類を飼育している人や鳥類に接する機会の多い人は、クラミジアを病原とした非定型肺炎に罹患することがあり、高熱、乾いた咳、頭痛、筋肉痛などの症状が表れます。

以上のような症状が緩和せずに3〜4日続く時は、肺炎を疑ったほうがいいでしょう。1週間も待つのは体力を衰弱させるだけですし、できるだけ早急な対処をすることで、リスクを減らすことができます。

まずは、内科や呼吸器内科を受診するようにしましょう。問診や聴診のほか、レントゲンやCTなどの画像検査、血液検査、喀痰(かくたん)検査など、症状の度合いによって各検査を実施することもあります。

すぐできる、肺炎の予防策

以上、述べてきたように、放っておくと肺炎はとても危険な病気です。特に高齢者は一度罹ると治療が難しいことも少なくありません。したがって、日頃からの予防が重要といえるでしょう。以下に有効な予防法を挙げます。

食事の栄養バランスを心がける

肺炎の引き金となるのは、抵抗力(免疫力)の低下です。それによって風邪に罹り、こじらせた末に肺炎になるというケースは多く見受けられます。肺炎を防ぐというよりも、日頃からの栄養バランスが重要だといえるでしょう。まずは、一日の食事量や栄養バランスが適正かどうかを意識することからはじめましょう。

そこで役立つのが、厚生労働省と農林水産省が定めた「食事バランスガイド」です。1日に、「何を」「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考になるよう、望ましい組み合わせのメニューやおおよその量をイラストでわかりやすく示したものです。 日々の献立を考える際に活用されてはいかがでしょうか。

しかし、年齢を重ねると食が細くなり、多くは食べられない時もあります。そういう場合は、無理して食べずに、不足しがちな栄養分をサプリメントなどで補うという方法もあります。

予防接種やワクチン接種を受ける

インフルエンザの流行時季には、合併症としてウイルス性肺炎が増えることは先に触れましたが、インフルエンザの予防も肺炎予防には極めて有効です。マスク・手洗い・うがいはもちろん、毎年インフルエンザの予防接種を受けることでかなりの効果が期待できます。また、高齢者の人は、市内肺炎の主な原因となる肺炎球菌のワクチン接種も65歳以上の方は定期接種になっているため、5年に1回、併せて受けることをおすすめします。

口腔ケアを常に心がける

これまで肺炎を発症するきっかけをいくつか紹介してきましたが、医療・介護関連肺炎のところでお話した口やのどの中にある病原を気管から吸い込んでしまう「誤嚥」です。飲食物や唾液が、食道ではなく気管に入るとむせますが、高齢者の場合、それができずに吸い込んでしまうこともあります。

そういう状態だと、口内の細菌を肺に吸い込んで肺炎を発症する可能性は高くなります。実際、阪神・淡路大震災の直後、避難所などでの関連死亡者922名のうち、肺炎で亡くなった人は223名にのぼりますが、その中でも誤嚥性肺炎は多かったようです。水の供給もままならず、歯みがきはおろか、うがいすらできない状況下では、口内で細菌が増え、誤嚥によって肺炎になるリスクが高まったからです。

東日本大震災の直後にも、肺炎患者が急増し、その9割は65歳以上の高齢者でした。こちらも誤嚥性肺炎の例が少なくなかったようですが、比較的早期から口腔ケアのチームが派遣されるなど、これまで以上に誤嚥性肺炎の感染予防が重視されるようになってきたことは確かです。

日頃からできる予防策としては、毎食後の歯みがきとうがいで細菌を取り除き、歯茎にも歯ブラシで5〜10分ほどマッサージすると効果が高いとされています。また、義歯を使用している場合はこまめに殺菌・洗浄を行うことが欠かせません。

禁煙する

喫煙の危険性は、今さらここで説明するまでもないと思いますが、肺炎だけでなく肺がんなど呼吸器疾患をはじめとした様々な病気を誘発します。喫煙によって、気管をゴミ・細菌・ウイルスから守る線毛細胞の機能が損なわれ、病原が簡単に侵入できる状態を招くからです。特にインフルエンザにかかると、肺炎を発症する可能性が高くなります。現在、喫煙している方は、禁煙することが肺炎予防の最善策です。

(監修 日本医科大学呼吸器内科 中道 真仁)