先月はスパコンとスマホが似ているという話をしましたが、今月はそこに自動車も加わります。
自動車とスマホとスパコンが似ている: プロセッサ*1とネットワーク
スマホは20年落ちのスパコンのプロセッサを使っていると先月紹介しました。さすがに自動車にはスパコンのプロセッサは使われていませんが、ECU*1と呼ぶマイクロコンピュータが2021年で1台あたり29.6個使われています。スマホやスパコンのプロセッサはCPUと呼ばれ、1台当たりの計算能力はECUとは相当違います。
スパコン富岳では1筐体(ラック)あたりCPU数は384個で、400台以上のラックがあるのでCPU数は15万個以上と桁違いではあります。とはいえ、プロセッサが使われているという点では一緒です。
もう一つの共通点はネットワークです。ただし、ネットワークがありつながっているということは共通ですが、その種類は様々です。スパコンは筐体間を結ぶ有線ネットワークがあり、さらにインターネットにつながり、リモートで利用できるようになっています。スマホは公衆網(4Gや5G)につながる他に、WiFi、近距離無線(Bluetoothや狭義のNFC*2など)の無線ネットワークがあります。それにより、WiFiや公衆網でインターネットにつながり、近距離無線でモバイルSuicaなどの決済に用いられています。
自動車は、車内の車載機器を接続する車載ネットワークとインターネットにつなげるためのネットワークがあります。車外とつながる車はコネクテッドカーと呼ばれます。車載ネットワークにはCAN(Controller Area Network)、LIN(local Interconnect Network)などいろいろありますが、最近はPCやスパコンなどと同様なイーサーネット(Ethernet)も使われるようになっており、まだまだ発展途上です。
自動車とスマホが似ていて、スパコンが違う: GPS*3
スマホやガラケーをまとめて携帯電話(モバイルフォン)と呼びます。携帯電話は無線方式により、文字通り携帯できるようにした通信機器で、固定電話(いわゆるイエデン)があり、今では少なくなりつつある公衆電話と同様に設置場所が固定されています。固定電話はその電話番号でおおよその位置がわかりますが、携帯電話はGPSを搭載しているので、位置情報がわかります。自動車のカーナビ(図1)にもGPSが搭載されており、その点、スマホと似ています。海外映画やドラマを見ているとカーナビのことをGPSと呼んでいることもあります。また自動車自体の位置情報を知るためにGPS発信機が装着されていることもあります。
一方、スパコン富岳は巨大な冷蔵庫のような建物の中に設置されており固定であるのは言うまでもありません。
自動車とスマホが似ていて、スパコンが違う:カメラとセンサ
最近のスマホにはカメラが3台搭載されています。センサは加速度センサ、ジャイロセンサ、磁気センサ、生体認証センサ、GPSセンサ、光センサ、温度センサなどが搭載されています。
自動車には、これらのセンサの他に、圧力センサ、ガス濃度センサ、流量センサ、レーザー光で距離を計測するLiDAR(Light Detection and Ranging)などが搭載されています。また自動運転などのためにカメラ(イメージセンサ)は平均で19台搭載されています。スマホや自動車はまさにカメラやセンサの塊となっています。スパコンはスパコン自体にはカメラやセンサは搭載されていません。ただしスパコンが設置されている環境に多くのカメラやセンサが設置されています。
体積当たりのセンサ個数ではスマホが最も密度が高いでしょう。最近はカメラで顔や手首を撮影することで血圧や心拍数まで計測できるようになっています。一番サイズが小さい端末が決済からヘルスケア、道案内までできるようになっているというのも情報通信技術の発達がもたらした驚異であり、大きいものに多くの技術が詰まっている印象を持っている旧世代の人間にとっては、一種の罠といえるかもしれません。
また自動車のように移動するための道具だったものが、次第にスマホと同じように種々のセンサを搭載し、インターネットにつながることで移動しながら映画などの種々のコンテンツも楽しめるツールになりつつあります。特に電気自動車ではOSのアップデートがあるなど、スパコンやスマホと同じようになりつつあります。気づいたら大型スマホに車輪がついた乗り物に乗っていたというのも、キツネにつままれたような感覚ですね。
(2023年2月)
*1:ECU(Electronic Control Unit)電子制御装置、エンジンや各種センサなどを制御するマイクロコンピュータです。
旧称はエンジンコントロールユニット(Engine Control Unit)で、エンジンの運転制御を行うものだけをさしていました。
スマホやスパコンのプロセッサはCPU(Central Processor Unit)と呼ばれています。
https://www.youtube.com/watch?v=3zhHuNgq1yk
*2:NFC(Near Field Communication)非接触ICチップを使って、かざすだけで通信できる通信規格。
通信エリアが短いことが特徴で、おサイフ機能付きのスマートフォンや、Suicaなどの交通系ICに使われています。
*3:GPS(Global Positioning System)、アメリカの30個の衛星からの信号をGPS受信機で受信し、自己位置を算出するものです。
精確性を期すためには、4つ(3つは位置を算出、1つは時刻同期)の衛星信号が必要です。
高層ビルが林立する場所では2-3個の衛星信号になってしまうので、地図上で自己位置がぐらぐらします。
筆者紹介
土井 美和子氏
国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)
1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。