田舎暮らしの詩 ~長野県伊那市より VOL.16~ マフラーのひとり旅

大山千佳

大自然のふところ、伊那谷からお届けしています。

伊那谷

職業

移住前 信託銀行 勤務
移住後 あがっとソロバン&学習塾 主宰

氏名

大山千佳(おおやまちか)

年齢

51歳

略歴

東京都出身。都立日比谷高校、青山学院女子短期大学卒。
信託銀行に26年間勤務し、事務・営業・本部企画に従事。
現在は、中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷の大自然の中、
小学生にソロバン、中学生に数学・英語を教える学習塾を主宰。

ターン状況

出身〜38歳 東京都品川区
38歳~47歳 東京都大田区
47歳〜 長野県伊那市

開業資金

1万円(教科書代)

ターンの理由

東京に住み、毎日朝から夜遅くまで仕事しながら、自分の本当の幸せは何か模索していました。
伊那で開催する染め物や味噌づくりのワークショップに通うようになり、風土・季節にそった生き方をしている移住者たちと知り合い、1年かけて移住を決意しました。

今の暮らしで気に入っていること

朝、鳥の鳴き声で目覚めること。
採れたての美味しい野菜を食べられること。


晴れているのに時折、雪が花びらのように舞ってくることがあります。
「風花」といって、冬の山間部でよく見られる光景です。
一度降り積もった雪が、上昇気流で舞い上がり、降ってくるのです。

記事トップ画像では風花は見えませんが、伊那では木曽駒ケ岳などに積もった雪が風花になります。
風花が舞うと、一年で一番寒い時期がやってきたなと実感します。

寒い伊那谷

1月の後半、
オリオン座が輝き、空気がキンと冴え渡る夜、集落の組長会に参加するため、自宅から徒歩5分の集落センターに行ってきました。

組長会は、集落の全250世帯を北部8組、南部4組に分け運営する自治組織の中にあります。
今年は、私も組長の一人として、運営に参加することになりました。
都会に住んでいるときには、隣に住んでいる人ともほとんど話したことがなかった私ですが、
伊那では、心地よい距離感で住民が支えあうことなしでは、暮らしていけないと思います。
地域を深く知り、住民の皆さんと知り合う良い機会なので、これからも楽しんで関わっていきたいです。

夜遅くまでかかった組長会の翌朝、
いつもストーブにのせているやかんの蒸気のせいでしょうか。
窓ガラスが凍り、窓が開かなくなってしまいました。

伊那の冬は本当に寒いです。

正月に帰省した際、母から「伊那は寒いでしょ。こんなの出てきたけど使う?」 とマフラーを手渡されました。

懐かしいFUKUZOのマフラーです。
高校生の時に使っていたものをまだとっておいてくれたようです。

私の高校生時代、東京では浜トラ(横浜トラッド)が流行していました。
膝丈のスカートにボンボンのついたハイソックス、FUKUZOのポロシャツ、ミハマの靴、キタムラのバッグ……。
50代以上の方はみなさん、記憶にあるのではないでしょうか。

当時を思い出しながら、風花の舞う伊那へ帰りました。
伊那のバスターミナルにつき、マフラーを首に巻こうとしたら、

!!!

バスの中に置いてきてしまった!

気付いたときには、バスの姿はもう見えません。
いつも以上に寒さに震えながら家に帰りました。

翌朝、バス運行会社に問い合わせたところ、東京事務所でマフラーを保管してくださっていることがわかりました。
結局、マフラーは、紛失した当日は終点駒ヶ根で1泊し、翌日はバスで東京事務所に行って1泊、駒ヶ根でさらにもう1泊。
3泊4日の旅を終えて、伊那バスターミナルで待つ私のもとに戻ってきました。


伊那のバスターミナルで運転手さんから受け取ったときは、
マフラーのひとり旅を思うと笑いが止まりませんでした。
よく帰ってきたね(笑)

バスに乗せて届けてくださった事務所の方の対応、ひとりぼっちのマフラーを運んでくださった運転手さんの笑顔。
このマフラーに、また新しいエピソードが加わりました。


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