ICTおばあちゃんの四方山話-第15話

ロマンを科学する

NHKのTVドラマ「宙わたる教室」を視聴されているかたはおられるでしょうか?定時制高校で、科学部の生徒が火星の青い夕焼けなどを自分たちで実験再現する場面があります。確かに米航空宇宙局の火星無人探査車「キュリオシティー」が捉えた火星の夕焼けは青いです。この青い夕焼けは大変ロマンティックですが、ドラマではそれを砂鉄など色々混ぜて火星の大気を再現し、青い夕焼けを実現するのです。
今回はロマンの科学を紹介します。

オーロラは白い

10月初旬、夫がかねてから希望していたオーロラを見る旅に行きました。オーロラならカナダとかアラスカが候補になる
のでしょうが、筆者としては訪問したことのない国に行きたく、ノルウェイのトロムソを選択しました。
カナダやアラスカでは室内からオーロラ観測ができるようですが、トロムソは室外での観測となります。
ですので、寒さに耐えられそうもなく、本当は1月とか寒い季節がオーロラ観測には適しているのですが、日和って10月にしました。
コペンハーゲン経由で日本出発の翌日ようやくトロムソに到着しました。ホテルは港のそばでガイドに案内されて、港の奥の比較的照明が暗い部分に向かいました。が、夫がそこまで行けず途中であきらめて帰りました。ツアーの他のメンバは3時間
頑張って白いオーロラがかすかに見えたそうです。
翌日はオーロラ追跡の現地ツアーに行きました。オーロラガイドがアプリをみながら、2時間かけて南下しました。暗い駐車場におりて空を見上げると白いものが見えました、それがオーロラでした。オーロラは白いのです。
オーロラガイドが露出を調整して写真を撮ってくれました(写真1)。オーロラは、白色であってもどんどん形が変化していくのく様子がわかりました。写真1は観測初めのころに撮ってもらったものです。この後湖の方に降りて観測し、さらに火をおこし、クッキーとココアを飲食しつつ、オーロラについてのレッスンを受けました。レッスンの後でさらにオーロラが強くなって、形がカーテンのように変化しています(写真2)。後ろ姿は筆者です。

写真1 ノルウェイでのオーロラを背景
写真2 オーロラ観測終盤のオーロラ

オーロラの高度が高い部分は大気が薄く、酸素原子の割合が大きいので、赤く発行し、中程度では窒素原子と酸素原子に衝突して青や赤、そして緑が混ざって緑黄色、高度が低い部分は窒素原子とぶつかり紫やピンクになります。が、今回はほぼ一定して緑色だったので、オーロラの高度は中程度約200~100km程度であったようです。
最近のスマートフォンでも夜間モードで露出時間を調整すれば撮影は可能です。Google Pixelでは天体撮影モードやタイムラプス動画(1枚ずつ撮影された写真をつなぎ合わせたコマ送り動画)があり、ツアーメンバの一人が三脚も使って上手に撮影されていました。特にタイムラプス動画は、1枚が4秒間ずつの露光時間で色もあり、オーロラの変化がよくわかり感動しました。筆者たちはロマンを科学するための道具の準備不足で残念でした。

-オーロラアラート

オーロラは、太陽の表面で起きる大規模爆発「太陽フレア」によって放出されるプラズマ粒子(太陽風)が地球の極地の高層大気と衝突して発光した結果の美しい自然現象です。
実は筆者が非常勤監事を務めている国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、太陽の活動を観察しています。太陽の活動による宇宙環境の変化は、電波の妨害や衛星の障害、電力設備の故障など、さまざまな被害をもたらす可能性があり、「宇宙天気」といい、それによる被害を「宇宙天気災害」といいます。災害被害を防ぐために、太陽活動を観測して起こりうる現象を予測するのが「宇宙天気予報」*1です。
この宇宙天気予報の一環で観測している太陽風データを活用してオーロラアラートサイト*2では、オーロラ帯での数時間先までのオーロラの出現予報を10分刻みで提供しています。それ以外に、南極・昭和基地とアラスカ・ポーカーフラットに設置された定点カメラによる空のライブ画像・タイムラプス動画を公開しています。
実は10月9日に「太陽面で大規模な爆発が発生、地球方向への高速コロナガスの噴出を確認」*3というニュースリリースがNICTより出されています。そのときの太陽風の密度などの観測値も一緒に掲載されています(図1)。
この時は、10月11日午前4時ごろには北海道南部で低緯度オーロラ(ピンク色)が観測されたようです。

図1 2024年10月11日の探査機ACE(米国NOAA・NASA)による太陽風の観測値。グラフの時刻はUT表記。(https://swc.nict.go.jp/report/topics/202410091600.htmlより引用)

オーロラが見えると観光客がロマンを満喫している間、宇宙天気予報では、宇宙天気災害が大きくならないかハラハラしつつ、地道に太陽フレアなどの観測をしています。オーロラというロマンを科学することが、電波の妨害や衛星の障害、電力設備の故障などの宇宙天気災害の予測に繋がり、社会インフラの健全性担保につながっているということも、大きなロマンだと思います。

*1:宇宙天気予報 https://swc.nict.go.jp/
*2:オーロラアラート https://aurora-alert.nict.go.jp/?_gl=1e7a46m_gaNzY4NDU3MjAyLjE3Mjk5NDYxMDc._ga_GRHV5QN75NMTczMDI2MzgzMS40LjAuMTczMDI2MzgzMS4wLjAuMA.._ga_H10Z448G8R*MTczMDI2MzgzMS40LjAuMTczMDI2MzgzMS4wLjAuMA..
*3: https://swc.nict.go.jp/report/topics/202410091600.html

(2024年11月)


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。