田舎暮らしの詩 ~長野県伊那市より VOL.9~ 住まい選び

大山千佳

大自然のふところ、伊那谷からお届けしています。

伊那谷

職業

移住前 信託銀行 勤務
移住後 あがっとソロバン&学習塾 主宰

氏名

大山千佳(おおやまちか)

年齢

51歳

略歴

東京都出身。都立日比谷高校、青山学院女子短期大学卒。
信託銀行に26年間勤務し、事務・営業・本部企画に従事。
現在は、中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷の大自然の中、
小学生にソロバン、中学生に数学・英語を教える学習塾を主宰。

ターン状況

出身〜38歳 東京都品川区
38歳~47歳 東京都大田区
47歳〜 長野県伊那市

開業資金

1万円(教科書代)

ターンの理由

東京に住み、毎日朝から夜遅くまで仕事しながら、自分の本当の幸せは何か模索していました。
伊那で開催する染め物や味噌づくりのワークショップに通うようになり、風土・季節にそった生き方をしている移住者たちと知り合い、1年かけて移住を決意しました。

今の暮らしで気に入っていること

朝、鳥の鳴き声で目覚めること。
採れたての美味しい野菜を食べられること。


「田舎に移住したいけれど、どんな住まいを探したら良いか分からない」
そんな理由で、移住への一歩が踏み出せない方もいらっしゃるでしょう。
わたしは、東京に家があるまま、とりあえず伊那で生活を始めてみました。
東京に戻れるという逃げ場を残していたので、余裕を持って住まいを探すことができました。
もちろん移住を成功させたい!という気持ちも大きかったのですが……。

最初の住まいは、伊那の友人に紹介してもらった素敵なログハウスです。
新宿行き高速バス乗り場にも近く、帰りたくなったらいつでも東京に帰れる安心感もあり、
田舎暮らしのスタートとしては申し分ない住まいだったと思います。

しかし、暮らし始めてから初めての冬に、雪国の厳しさを実感することになります。
吹き抜け三階建ての大きな家は、とにかく寒いのです。
三角屋根の窓には雪が積もるし、北向きの玄関は雪が溶けないので、雪かきも大変でした。
それでも、なんとか雪国の暮らしに慣れて住み続けようかと思っていたのですが、数学・英語塾を始めたことで、引越を考えるようになりました。

生徒たちが通うことを考えると、少しでも学校に近い場所の方が良いと思ったのです。
そもそもカフェを始めようとして選んだログハウスです。塾を始めるならもっと塾に適した場所があるはずです。
どうせ引っ越すなら見晴らしのよい場所がいいなぁ、と、以前から気になっていた集合住宅の管理会社に問い合わせてみたところ、2階に空きがあったので、すぐに引越しを決めました。

2番目の住まいは、伊那谷を見下ろす場所に建つ「マンション」という名前のアパートです。
2月の一番寒い時期に引越しましたが、南向きで、雪の積もった冬でも昼間はポカポカと暖かでした。
建物の構造や陽当たりで、こんなにも寒さが違うのか、と驚きました。
階下の住人や隣人も暖房するから、建物全体が温まるのが集合住宅の良いところです。
雪かきをする必要がないのも気に入っていました。

ところが、「マンション」は、小・中学校に近いこともあって、たくさんの生徒たちが通ってくれるようになり、あっという間に手狭になりました。
夜遅くまで生徒を教えていると、隣人への迷惑も気になります。
それから、伊那での暮らしに慣れるにつれて、野菜や果樹を作るための庭もほしくなってきました。

見晴らしが良く、学校が近いこのエリアで、一戸建てに住みたい!
「マンション」に暮らしながら、一戸建てをネットで探したり、散歩して空き物件を探したりするようになりました。
粘り強く探してみましたが、同じような条件で住んでいる人が多いのでしょうか?
なかなか空き家がないのです。
「年に一回お盆に親戚が集まるから、貸せないんだよね」とか、「仏壇があるからねえ」と断られる日々。
それでも、すでに伊那に住んでいることが強みになり、ふき畑付きの一戸建てに巡り合うことができました。

最初のログハウスに9ヵ月。
「マンション」という名のアパートに1年3ヵ月。
移住してから2年かかって、ついに見つけた自分の住まいです。

移住してからライフスタイルや価値観がどんどん変化して、その変化に応じて住む場所が変わってきました。
今、移住を検討されている方、いきなり土地を買って家を建てるのではなく、まずは住んでみてから、本当に住みたい場所を選ぶのも良いかもしれないです。
暮らしてみて初めて分かることや、暮らしてから変わっていくことがたくさんあります。
わたしは、この方法で住まいを選んで、本当に良かったと思っています。


☞ 田舎暮らしの詩 VOL.1 から読む