手順さえ覚えれば、AEDの操作は決して難しくない。

約10年で急激に普及しているAED

駅・市役所・学校をはじめとした公共の施設や場所にはもちろん、今ではコンビニエンスストアにも設置されているAED(自動体外式除細動器)。ご存じの方も多いと思いますが、心臓に電気ショックを与えて、正常なリズムに戻す医療機器です。厚生労働省の調査では、平成26年末までの販売台数は、累計で約63万6,000台に及び、医療機関や消防機関向けは約12万台、一般施設向けは約51万6,000台という内訳でした。一般の使用が解禁された平成16年の販売台数は約7,400台。それと比べると、10年間でなんと86倍と急速に普及していることがおわかりいただけるでしょう。

さらに、公益財団法人「日本心臓財団」は300mごとのAEDの設置を提唱しています。これは、分速150mといった早足ほどのスピードなら、どこからでも1分以内でAEDを持って来ることが可能で、遅くとも5分以内に使用が開始できる距離なのです。

また、AEDによる救命事例も増えてきており、平成27年中には1,103人の傷病者にAEDが使用されています(総務省消防庁「平成28年版 救急・救助の現況」)。とはいえ、心肺機能停止の傷病者数の全体は2万4,496人で、実際にAEDを活用した例はわずか4.6%です。普段からAEDの設置場所を把握しておくだけでなく、冷静に操作を行う上で手順を知っておくことも欠かせません。

早い段階でAEDを使うことが救命のポイント

日本では年間、およそ7万人の方が心臓突然死で亡くなっています。1日あたり約200人、7.5分に1人という高い数字です。原因の大半は「心室細動」。これは、心臓の筋肉がけいれんを起こしたような状態を指します。そうなると心臓は身体に血液を送ることができなくなり、直ちに手当をしなければ、心停止で死に至る危険性が極めて高い不整脈です。

その最も効果的な治療方法が、直流通電除細動。平たくいえば、AEDをはじめとする直流電気による通電ショックのことです。胸部にこれを行うことで心室細動がやみます。

ただし、適切な治療が行われない場合、3〜5分という短い時間で脳死に至る可能性が高まります。ですが、近くにAEDがあるとは限りません。その際必要なのは、AEDが届くまでの間に行う心臓マッサージ(胸骨圧迫)や人工呼吸です。蘇生の成功率を上げ、脳後遺症の発生率が下がるというデータもあります。

しかし、事態は急を要します。AEDを使うにしても、救命率は1分ごとに7~10%低下するといわれています。前述したように、日頃からどこにAEDが設置されているかを把握しておけば、その対応を早めることも可能です。

「平成28年版 救急・救助の現況」によれば、119番通報から救急車が現場に到着するまでの平均所要時間は約8.6分。一方、心肺停止が始まって8分後の救命率は20%にまで低下します。いずれにせよ、AEDをできるだけ早い段階で使用することは重要なのです。

AEDは講習を受けていないあなたにも使える

現在、各消防本部が中心となって、AEDの使い方を含めた応急手当講習を実施しています。平成27年中に受講した人の数は約185万人にものぼりました。また、日本赤十字社やAEDのメーカーでも使用方法の講習会が開かれています。しかし、AEDを使用するのに特別な資格が必要というわけではありませんし、講習会を受けていない人でも消防庁が発表しているマニュアル「救命処置の流れ」で手順を覚えれば、簡単に使用できます。マニュアル自体はPDFファイルになっているので、スマートフォンやタブレット等、常に携帯しているデバイスにダウンロードしておけば、もしもの際に役立つはずです。

また、AEDには数タイプありますが、いずれの機種も同じ手順で使えるように設計されています。そして、電源が入ると音声メッセージとランプで指示を出すので、それに従って行動や操作をしましょう。

救命処置の流れ(消防庁)

続いて、その消防庁マニュアルをもとにしたAEDの使い方を紹介します。こちらは抜粋の形をとっているので、あくまでも参考となさってください。より詳細な内容については、ぜひPDFファイルをご覧ください。

~AEDの使い方~

①AEDを傷病者の横に置く
●AEDを傷病者の頭の横に置きます。ケースから本体を取り出します。

②AEDの電源を入れる
●AEDのふたを開け、電源ボタンを押します。ふたを開けると自動的に電源が入る機種もあります。
●電源を入れたら、以降は音声メッセージとランプに従って操作します。

③電極パッドを貼る
●傷病者の衣服を取り除き、胸をはだけます。
●電極パッドの袋を開封し、電極パッドをシールからはがし、粘着面を傷病者の胸部にしっかりと貼り付けます(貼り付ける位置は電極パッドに絵で表示されていますので、それに従ってください)。
●機種によっては電極パッドのケーブルをAED本体の差込口(点滅している)に入れるものがあります。

④心電図の解析
●電極パッドを貼り付けると「体に触れないでください」などと音声メッセージが流れ、自動的に心電図の解析が始まります。
このとき、「みなさん、離れて!!」と注意を促し、誰も傷病者に触れていないことを確認します。
●一部の機種には、心電図の解析を始めるために、音声メッセージに従って解析ボタンを押すことが必要なものがあります。

⑤電気ショック
●AEDが電気ショックを加える必要があると判断すると「ショックが必要です」などの音声メッセージが流れ、自動的に充電が始まります。充電には数秒かかります。
●充電が完了すると、「ショックボタンを押してください」などの音声メッセージが出て、ショックボタンが点灯し、充電完了の連続音が出ます。
●充電が完了したら、「ショックします。みんな離れて!!」と注意を促し、誰も傷病者に触れていないことを確認し、ショックボタンを押します。

⑥心肺蘇生法の再開
●電気ショックが完了すると、「ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始してください」などの音声メッセージが流れますので、これに従って、ただちに胸骨圧迫を再開します。
●胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の組み合わせを続けます。

⑦AEDの手順と心肺蘇生法のくりかえし
●心肺蘇生法を再開して2分(胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせを5サイクルほど)経ったら、AEDは自動的に心電図の解析を再び行います。音声メッセージに従って傷病者から手を離し、周りの人も傷病者から離れます。
●以後は、<④心電図の解析 ⑤電気ショック ⑥心肺蘇生法の再開>の手順を、約2分間おきにくりかえします。

このような緊急を要する状態では、119番通報をし、AEDを用いるための、ちょっとした勇気が求められます。救命処置を落ち着いて行うことができるよう、ぜひ講習を受けられることをお勧めします。