素敵なお家が見つかり伊那での生活を始めた頃、実は東京に自分名義のワンルームマンションを残したままでした。
本当に移住できるのか、まだ半信半疑だったのです。
それでも「後には引けない!」と、気持ちを奮い立たせました。
借りた家がおしゃれなログハウスで、飲食営業のできる厨房もあったので、まずはコーヒーを淹れてお出しするための準備ができればスタートできる状況です。素敵なカップやソーサーなどを選び、コーヒーミルにこだわり、店内の装飾を考えて…と、わたしが本当にいいと思うものだけを揃えて、わたしのお店を始めることに心が躍りました。
ログハウスは美容院を併設していたので、美容院からお客さまの飲み物をオーダーしていただけるというお話になりました。初めからお客様がいるなんて、なんて恵まれたスタートなのだろう。移住者のつながりで知り合った友人に、託児の仕事で起業したいと思っている人がいるので、託児ルーム付きのカフェにするのもいいかもしれない。
すべてうまくいく気がしていました。
カフェの存在を知ってもらおうとオープニングイベントを開催しました。ご縁のあった整体師さんをお招きした「健康セミナー」には、たくさんの伊那の方々に来店していただきました。
初日はご来店いただいたお客様にとても喜んでいただけたのですが、2日目に整体師さんが高熱でダウンしてしまい、セミナーは中止。
参加予定の方々にセミナー中止のご連絡をしたり、キャンセルのため用意していたランチが無駄になってしまったりと、お店の経営の難しさを思い知りました。
それでも、もっと伊那の素晴らしさを知ってほしくて、都会の人を対象としたイベントも開催しました。
伊那の知る人ぞ知るスポット巡りをする「地球を感じる伊那ツアー」では、募集定員をあっという間に越えました。山羊が雑草を食べ、鶏が虫を食べ、“命”が循環するオーガニック林檎農園見学、温泉入浴、中央構造線・パワースポットめぐり。お料理は、地元野菜を使って、心をこめてすべて手作り&オーガニック。東京から長期滞在で遊びに来てくれていた友人がいたので実現した企画でした。
さらに「オーガニック農園フェスタ」を開催しました。伊那でつながったオーガニック農園の農作物や手作り品を販売するイベントで、これも、ちらほら来店者がありました。
イベントは好評でしたし、収益も上がりました。
ただ肝心のカフェの経営は、思った様にいきませんでした。
カフェに珈琲を飲みに来てくれるお客様のほとんどが、伊那でお世話になっている方ばかりです。珈琲1杯いくらでお出ししたらいいのでしょう。
そもそも普段お世話になっている方に珈琲やお茶をお出しして、お金をいただくということ自体が、申し訳ないという気持ちになってしまうのです。
かといって、都会からの集客イベント頼みというのは疲れるし、私が望んでいた暮らしとは少し違う気がします。
カフェを経営することに、だんだんストレスを感じるようになりました。
地域の一員となっていく自分を実感すればするほど、カフェで生計を立てるということに行き詰まっていくようでした。
もうひとつの頼みの綱は、ファイナンシャルプランナーとしてのコンサルティングだったのですが……。
大山千佳
職業
移住前 信託銀行 勤務
移住後 あがっとソロバン&学習塾 主宰
氏名
大山千佳(おおやまちか)
年齢
51歳
略歴
東京都出身。都立日比谷高校、青山学院女子短期大学卒。
信託銀行に26年間勤務し、事務・営業・本部企画に従事。
現在は、中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷の大自然の中、
小学生にソロバン、中学生に数学・英語を教える学習塾を主宰。
ターン状況
出身〜38歳 東京都品川区
38歳~47歳 東京都大田区
47歳〜 長野県伊那市
開業資金
1万円(教科書代)
ターンの理由
東京に住み、毎日朝から夜遅くまで仕事しながら、自分の本当の幸せは何か模索していました。
伊那で開催する染め物や味噌づくりのワークショップに通うようになり、風土・季節にそった生き方をしている移住者たちと知り合い、1年かけて移住を決意しました。
今の暮らしで気に入っていること
朝、鳥の鳴き声で目覚めること。
採れたての美味しい野菜を食べられること。