ICTおばあちゃんの四方山話-第2話

座右の銘は あおいくま

今はDE&I(ダイバシティ、エクイティ&インクルージョンで、取締役会に女性役員30%が求められる時代です。筆者の会社入社は1979年、男女雇用機会均等法制定以前で、学生時代から紅1点だったので隔世の感があります。そのような社会人人生でいくつかの座右の銘がありますが、一番思い浮かべるのはコロッケさんが言ったという「あおいくま」※1です。
焦るな、怒るな、いばるな、くさるな、負けるな、の頭文字を並べたものが「あおいくま」です。

-あ:焦るな

車中でWeb会議をして、新幹線の駅に着き、タクシーが去るとともに、Web会議の声が途絶えます。ポケットにあったはずのスマホがありません。精算時にスマホをポケットに入れたつもりが、入らずタクシーの座席かどこかに落ちてしまったようです。スマホがないとタクシー会社に連絡もできず、Web会議をしつつ、タクシー会社のWebサイトを探して、スマホ忘れの連絡をします。夜、名古屋での会議を終えて帰宅したころ、自宅にスマホを届けていただきます。忙しいタクシー運転手さんには誠に申し訳ないことです。
 恥ずかしながら、このようなスマホ忘れは数度あります。だから、「焦るな」は一番大事です。最近では座席を立つとき、必ず振り返ります。ホテルを去るときは再度、部屋を1周します。それでもスマホやPCの電源ケーブルなどを忘れることがあります。困ったものです。

-お:怒るな

わてんぼうな筆者は、短気でもあります。筆者の時代には育児休暇をとるということはなく、1日2回の育児時間30分間を合わせての1時間の時短勤務がせいぜいでした。長女と次女は1歳5か月しか離れていず、次女が3歳になるまでの記憶はほとんどありません。次女が1歳を過ぎると、時短勤務もなくなり、毎日とにかく定時に帰るようにひたすら業務に励む日々で、どんどん食べる速さが早まりました。当時は紙おむつもなく、貸しおむつと自前のおむつで、洗濯機でおむつを洗いながら、特許を書いていました(今思うとサービス残業で決して褒められることではありません)。
そのような日々を過ごしたせいか、効率よく働くことを一緒に働く若手にも、ついつい求めてしまうきらいがありました。若手に任せるより、自分がやったほうが早く終わると思ってしまうのでした。そう思ってイライラして、思わず、怒りたくなる自分がいるのでした。

それは家庭でも同様で、子供が自分なりに親を手伝おうとして、運んでいた茶碗を落としてしまったりすると、カケラで怪我をしていないかを気遣う前に、思わず「なんてことするの!」と怒っている自分を見出すのでした。母親失格ですね。そんな時、誰から聞いたのか覚えていないのですが、「怒りたくなった時、深呼吸して頭の中で30回数えてから発言するのが良い」というのです。それからこれを実践するようにしています。でもなかなか難しいですね。

-い:いばるな

仕事をするようになった長女に、「私が上司だったとしたら、どのようなアドバイスがある?」と聞いたことがあります。答えは「部下の仕事を認めているということを示してほしいなぁ」でした。自分では威張っているつもりがなくても、部下からはそうみえるのかと思い知らされました。それからなるべく、会社に行ったときに、部下には声をかけるように気を付けました。コロナ禍では、「ありがとう」などの言葉を一言追加するようにしています。それに効果があるかどうかは不明ですが、相手の仕事をリスペクトする(認める)ことは大変重要と常々思っています。

-く:くさるな

仕事が終わり、夜洗濯を干していると、「昼間、XXさんへのあの発言は問題だったかなぁ」とか、朝出がけにした夫との喧嘩とか、次々と浮かんできて、それが頭の中でぐるぐる渦巻いて、どんどん暗くなっていきます。対策は、声に出すことです。そのまま言語化すると、ますますくさるので、代わりに「ぶつぶつぶつぶつ。。。。。。」と言い続けるのです。さすがに「ぶつぶつぶつぶつ。。。。。。」を5分間も言い続けることができず、ばからしくなって、気づいたときには、たくさんあった洗濯物も干し終わっています。
みなさんも「ぶつぶつぶつぶつ。。。。。。」を試してみてはいかがでしょうか?

-ま:負けるな

紅1点で、かつヒューマンインタフェースなどという新しいことをやるとなると、正直風当たりは厳しかったです。負けないようにする私の秘訣は振り返ってみると、以下の3つでます。
・前例を作る
紅1点には常に前例がありません。いつでも注目を集めています。前例がないからと断られてあきらめたらそこで終わりです。なので、前例がなければ、前例を作ればよいと逆転の発想をしています。
技術の世界では前例がない、つまり新規であることがイノベーションとして重要視されます。が前例を作ろうとすると、なぜか法律や規定やなんちゃらと、いろいろと前例がないことを理由に立ちはだかるものや人たちがわんさといます。イノベーション大事と言っているのに、この人たちはそれがわかっていないといって怒っても仕方ありません。その人たちに何を前例としているか問うて、それに近い形で解決策を示すと、自分の前例に近いのでリスクを負わなくて済むということで、動いてくれるようになります。

・仕事をワクワクする
自分が好きな仕事ばかりではありません。ほとんど自分から提案して仕事をすることが多かったのですが、かわりにいろいろ押し付けられる仕事もありました。いやな仕事をいやなまましていると、一緒に働く人も士気が上がりませんし、家でも子供に対して笑顔になれません。これでは何のために仕事をしているかわかりません。なので、どうやったらその押し付けられた仕事をワクワクできるかをまず考えるようにしました。これは結構知恵を絞らないといけないのですが、日本のミッションはおおざっぱな割付しかしないので、一緒に仕事をする人たちの適性なども加味して、具体化し、うまくワクワクできる方向性を見いだせれば、あとは大丈夫。ゴールを共有し、笑顔で進みます。

・次にボールを渡す
ヒューマンインタフェースのガイダンスで重要なのが「出口を作る」です。今も昔も、ループに嵌まって抜け出せなくなるアプリなどたくさんあります(筆者はいつもそれに嵌まります)。ユーザが迷子にならず、アプリやシステムから無事に脱出できるように設計することは大事です。
それと同様に、プロジェクトを始めるときには、成功や失敗を含め、どのような出口(ゴール)にするかを、きちんと設計せねばなりません。それも自分がいなくなっても、その出口に到達できるように。それは自分の後継者に、ボールを渡すことです。
いろいろなところで紅1点でしたが、必ず、後継者を作り、その方にボールを渡してきましたし、常にボールを渡せる方を探しています。時々、女性だからという理由では嫌ですと断られることもありますが、それもチャンスの一つなのでぜひトライしてほしいといつも願っています。受け取ったボールを、ゴールまで運べなくても次の方に託せば、いつかはゴールにたどり着けると信じています。

図1 あおいくま

まだまだ「あおいくま」を座右の銘にして、ボールを渡し続けています。

※1参考図書:母さんの「あおいくま」/コロッケ著
https://www.shinchosha.co.jp/book/126271/

(2023年10月)


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。