ICTおばあちゃんの四方山話-第10話

ブラジルでのリクルーティング その2

5月末、口座のある地方銀行から「70歳になるとATMからの引き出し限度額が20万円となります」という手紙が来ました。おれおれ詐欺防止の一環かもしれませんが、年寄は騙されやすいから一斉に対象としようというのが、少し納得できません。結局、電話をして従来通りの引き出し限度額を維持できることになりました。が、口座番号と名前、住所、生年月日だけでできるのですから、逆に拍子抜けでした。
ということで古希を迎えました。引き続き、よろしくお願いします。
今月は前回に続きブラジルでの綱渡りのリクルーティング模様を紹介します。

-奨学金授与式に最終契約書がない

ブラジルとの書類のやり取りですが、例えば日本側でたたき台を作成し、法務部にも確認してもらい、担当の東芝南米社の女性課長に月曜日にメールを送ります。その後彼女が、大学の担当先生とやり取りし、担当の先生が大学事務局や工学部長などとやり取りし、返事が返ってくるのが、週末の金曜日の夕方以降になります。翌週からその回答への対応をして、またブラジルにメールを送るのはさらに最初のメールから1-2週間後になり、あっというまに1か月がたってしまうという状況でした。
サンパウロ大学の要求する奨学金額が高く、値下げ交渉をこのペースでするので、なかなからちがあきません。奨学金自身は東芝財団に負担していただくので、その交渉もせねばなりません。11月ごろでしょうか、奨学金と奨学生の人数を決め、東芝財団にも了解が得られ、現地法人の社長にサンパウロ大学が主催する奨学生選出会議に参加していただき、奨学生の選出行うことができました。

しかし、契約書の最終版はその時点で、まだサンパウロ大学から、届いていません。
最終契約書は未決ですが、奨学金に充てる予算は決算の都合上年度内の2014年2月末までに支払わねばなりません。一方、ブラジルの予算年は1月1日開始なので、サンパウロ大学としては、2014年の年初に奨学生に渡したいと要望が来ました。

授与を行っていただく島内取締役とサンパウロ大学工学部長、そしてブラジル総領事のスケジュールから、授与式は2014年2月10日(月)に決まりました。
授与式後には、島内取締役現地からは「法人社長をブラジル在住の日系ネットワークへの紹介したい」「オリンピックと大統領選挙を控えた情報収集のため、サンパウロ市内の金融機関を訪問したい」との要望がありました。一方現地法人社長からは「東芝グループの現場を島内取締役に見ていただきたい」との要望をいただきました。その結果、今回のブラジル訪問は表1のような過密なスケジュールになりました。

表1 奨学金授与式(2014年2月8日―16日)

出発日2014年2月8日は大雪

最終契約書がないので、授与式の日に差し上げる奨学金はないので、代わりに奨学金授与書を作成し印刷します。また、大学へのお土産もかばん持ちである筆者が準備し、大荷物となりました。そして、出発の2月8日首都圏は大雪で、都内の交通網は大混乱です。まず羽田空港は閉鎖となりました。成田空港は運航情報によれば出発ということです。が、いつも使う水天宮から成田空港までのリムジンバスは高速道路でトンネル内の追突などがあり使えません。12時過ぎには大雪の中、お土産と書類とPCで重いスーツケースを必死に引っ張り、京成線を利用し、どうにか15時頃には成田空港にたどり着きました。飛行機は予定通りの時刻に搭乗しましたが、1時間後に目覚めた時には強風でまだ空港に待機していました。これで飛ばなかったら、苦労して設定した月曜日朝の授与式に間に合わないと、本当にドキドキで、離陸した時には本当にほっとしました。しかし、気象アンテナの売り込みでところどころ同行する小向工場の新人は、大雪による倒木のため成田エクスプレスに閉じ込められてしまい、フライトに間に合いませんでした。彼は、初めての海外出張であったのに、8日夜は成田空港で夜を明かしました。

-奨学金授与式無事終了

奨学金授与式は2月10日(月)9:00開始です。8:00にホテルを出発し、会場に着くと、立派な花が飾られ、カメラマンがここぞとばかり写真を撮りまわり、TVカメラも入り大盛況でした*1。あれだけ事務仕事が滞るのに、本番はなぜか間に合うというのは、インドでもブラジルでも一緒でした。時間にルーズなブラジル人なので、遅れる学生もいるのではないかとひやひやしましたが、現金なもので、みな勢ぞろいし、作成の奨学金証書で無事授与も完了しました*2

ほっとしたところでサンパウロ大学の窓口の先生に「帰国はいつか」と問われました。「14日の夜帰国する」と答えると、「14日午前中で最終契約書をそろえるから、取りに来てほしい」と言われ、目が白黒してしまいました。今まで3か月かかっても署名が得られなかったのに、1週間かからずにできるのかと半信半疑だったのですが、どうもキャッシュが渡されず、その要因が契約書にあるということで、工学部長から「即刻対応するように」とお達しがあったようです。

-怒涛の移動と会議、夕食会

2月10日授与式終了後は、奨学生らと大学の食堂で昼食会です。そして、工学部の3人の教授の研究紹介を受け、さらに教授らと一緒に夕食会です。

●和食ばかりの夕食会

翌日午前はサンパウロ市内の金融機関を訪問し、オリンピック会場建設と大統領選、ブラジル経済などについての情報交換です。昼は、授与式にも出席いただいたサンパウロ領事公邸での昼食会です。料理人は領事が日本で採用されるということで、おいしい和食をいただきました。新しく大使館や領事館を開くときは、絵画や彫刻などの美術品を既存の大使館や領事館の手持ちから譲っていただくなど、普段伺うことのない会話でした。
午後は島内社外取締役知己の元農務大臣や元駐米大使と面会し、夕方は東芝グループの現地会社の方たちとの夕食会です。和食は高く、今回のように日本から訪問者があった時に、交際費で落とせるということで、インドでもそうでしたが、ブラジルでも同様で、この後夕食会はみな和食でした。

●日本ブランドを広めるのも大使の務め

12日も島内社外取締役知己のブラジル大使館を訪問し、また中銀元会長と昼食会です。そして午後にブラジリアに向かいました。現地の日系関係者とご一緒に日本の大使館に夕食会に招いていただきました。夕立ち後で庭の芝生や木々の緑が大変きれいでした。大使夫人が外務省からのお酒リストの中から選ばれたという発泡性の日本酒「月の桂」をいただきました。日本酒は甘みが強く苦手なのですが、この発泡酒はおいしかったです。大使夫人は「日本のブランドを広めるために貢献しているのですよ」と仰っていました。

●ようやく現地料理を堪能

シュラスコ

13日は気象レーダーの部隊と一緒にブラジリアの省庁回りでした。大雪でフライトに間に合わなかった新人さんも参加していました。夜は、島内社外取締役は、現地にいるご子息と会われるということで、久方ぶりにかばん持ちから解放され、現地社長と気象レーダー部隊と一緒にシュラスコを食べに行きました。シュラスコは以前サンディエゴで食べたことがありますが、現地ではこれが初めてでした。串刺しの肉が次々と来、ワゴンでカイピリーニャというリキュールと果物を使ったカシャッサというカクテルも楽しめて、ご機嫌でした。

●飛行機に対する不思議な力!?

シュラスコで気持ちが上がったのも束の間、突如滝のような雨が降り出し、1時間たってもやみません。
社外取締役はじめ筆者たちはブラジリア泊まりだったのですが、気象レーダーの部隊は夜便でサンパウロに戻るということでブラジリア空港に向かいました。飛行機は飛びました、サンパウロGRU空港ではなくサンパウロCHG空港となり、手配していたタクシーも来ず、大変だったと後で聞きました。成田空港に足止めになった新人さんは、どうも飛行機に対して不思議な力を持っていたようです。

●ついに契約書を手中に

14日午前は、大規模農業地開発をやっているCAMPO社を訪問しました。本当は中西部の現地を訪れ、自動運転を含めた大規模農業を見たかったのですが、社長に話を伺いました。
 この会議が終了次第、ブラジリア空港からサンパウロ空港に向かいました。夜の出発に向け着替えや荷物整理などしている間に、サンパウロ事務所の方に、サンパウロ大学まで懸案の最終契約書をとりにいっていただきました。お土産や授与式関係の書類の代わりに、最終契約書を持ち、心軽くブラジルを後にすることができました。

-最後には結果を出す?火事場のバカ力に圧倒される

子供がいつ病気になり会社を休むことになるかもしれないと、いつも計画をたて、前倒しで準備を整えるのが当たり前であった筆者にとって、インドやブラジルでの交渉は本当にやきもきし、ストレスがたまるものでした。しかし、最後の最後にはきちんと成果を出す彼らの火事場のバカ力を目の当たりにして、用意周到だけではグローバルはわたっていけないことを学びました。よい経験でした。
そして懲りずに、東芝退職後もインドには国の科学技術プロジェクトの関係などで訪問し、その発展のすごさに圧倒されています。そしてブラジルには2024年1月に仕事で工場見学などに伺い、インフレに合わせて製品価格をしっかり上げて、利益を出している姿勢に圧倒されました。

*1:東芝ニュースリリース
https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2014/02/tp2101.html
*2:授賞式の模様
https://www.businesswire.com/news/home/20140221005178/en/Toshiba-Endows-Scholarship-Program-at-Brazils-University-of-S%C3%A3o-Paulo

(2024年6月)


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。