ICTおばあちゃんの四方山話-第13話

外部の委員会あれこれ 日本学術会議

最近では会社の中に多様性DE&I(ダイバシティ、エクィティ&インクルージョン)、人的資本関係などいろいろな委員会が設置されるケースが増えました。
読者の皆さんの中にも本業以外の兼務などが増えている方もおられると思います。

社外も同様にいろいろな委員会があり、特に女性の方は「多様性の観点から30%は女性で」ということで会議が増えて困るという方もおられるかもしれません。筆者も女性ということで声をかけていただき、色々な委員会に参加してきました。少しずつ、筆者が関わったそのような委員会について紹介したいと存じます。
今回は日本学術会議です。

日本学術会議(内閣府)とは

日本学術会議所は乃木坂にあり、乃木坂駅から歩くと、国立国際美術館一つ手前にあるため美術館と間違えて入ってこられる方もいらっしゃいます。
Webサイト*1に記載されているように
“日本学術会議は、我が国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命として日本学術会議法に基づいて設立された日本のアカデミーであり、内閣総理大臣所轄の下、独立して職務を行う機関です。人文・社会科学から生命科学、理学・工学にわたる全分野の科学者で構成され、210名(定員)と約2,000名の連携会員で構成されています。”
任期は6年ですが、3年に1回半数が入れ替わります。
その際、内閣府から承認されなかったケースがあり、メディアに取り上げられたので、名前は聞いたことがあるかもしれません。
筆者は2005年に第20期会員となりました。以降連携会員や会員を経て、現在は特別連携会員として、足掛け20年ほど関わっています。会員、連携会員、特別連携会員は非常勤の一般職公務員でいわゆるみなし公務員となります。

-兼務は許されるのか?

現在は、本業の他に、YouTuberやVtuberとして活躍する方がおられる時代です、が、兼業には本務の会社の了解が必要です。同業であれば企業機密を守る観点から兼業は許されません。日本学術会議や省庁の審議会や委員会、専門領域の学会活動などは、公的活動でもあるので、本業に差支えがない限り、兼業申請をすれば許可されます。日本学術会議や(別の機会に触れますが)省庁の審議会などは、議員や企業の会長やCTOなど経営層も参加しているので、企業としては名誉なことと受け取られます。
大学の経営協議会委員も、リクルートに寄与するということでよいとの印象です。しかし、遠方の大学とか他の兼務が多いという理由で、お断りしたこともあります(今ならばWeb会議でよいのでOKだったかもしれません)。

-兼務は大変か?

日本学術会議に限らず、本業とは別の組織で仕事をするのですが、それが大変かどうかは、兼務先での仕事量に依存します。多くの場合、出席義務がある総会や各種委員会がどれだけの頻度であるか、さらにそれぞれで委員長や幹事などの役職を務めるかどうかが、仕事量を決めます。
筆者の場合は、2005年から2023年まで、常に何らかの役職に複数関わっていたので大変でした。特に日本学術会議が発表する提言・報告・見解・記録などの査読に関わる機会が多かったのですが、期の終わりには委員会が成果をまとめて提案してくるので、膨大な資料を読まねばならず、本当に大変でした。
また2011年から2017年は、第三部(理工系)の幹事あるいは副部長として、毎月の幹事会(会長、副会長、第一部から第三部の部会長、副部会長、幹事が参加)に参加せねばなりませんでした。さらに、「軍事的安全保障研究について」*2検討するために2016年に設置された安全保障と学術に関する検討委員会に第三部副部長として参加した時も大変でした。セキュリティやロボット工学などデュアルユースである最先端技術を研究開発ができるように良い落としどころがないかと悩みました。

兼務の対価は何?

「本務でさえ忙しいのに、社外まで兼務をするなんて、よっぽどのうまみがなければやっていけない」と思いますよね。日本学術会議の場合は。参加した会議回数に応じた委員手当が支給されます。しかし、本務の勤務時間中に会議に参加するので、当時私の会社の場合はこの委員手当を
本務の会社口座に振り込まれるようにしていました。(本務の口座への振り込みができない場合は、手当を断りボランティアとなります。)
「手当もなしなのに、なぜ大変な思いをしてまで兼務先で頑張るのか不思議」と思われるかもしれません。日本学術会議の場合は、科学技術というアカデミアの世界では筆者の専門である情報学はまだ新しい分野なので、その存在価値を高めることに寄与したいという思いがありました。また、会員・連携会員・特任会員の多くが大学の研究者です。数少ない企業の技術者である筆者としては、科学技術に貢献している技術者の立場を知るきっかけになればとも思っていました。


また、日本学術会議に関わったことで今までにない体験もできました。
体験1)会員の任命者は総理大臣であり、総理官邸で行われました。
体験2)皇居松の間で開催された講書始に参加しました。
体験3)ブラジリアで開催された世界工学者会議に参加しました。
体験4)工学系学会の調査でブリュッセルとヘルシンキに行きました。
体験5)自分の専門分以外の先生方と知り合いになりました。
他県6)研究費を獲得するための研究者の苦労を知りました。

まぁこの程度の体験でありがたがっているとは、うまくこき使われているだけではないかと言われそうですが、他の世界を知ることは、自分のことや自社のことを異なる視点からみられるようになることと信じて
今後も機会があればいろいろな委員会に参加していきたいと思っています。

(2024年9月)

*1:https://www.scj.go.jp/
*2:https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/pdf23/170413-houkokukakutei.pdf


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。