首都圏や都市部と比較して多いメリット
もちろん、居住者にとってのメリットが多いのも特徴。まず、健康な状態で移り住むので、仕事や社会活動、生涯学習に参加できるチャンスが十分にあります。地域資源を生かし、農業体験や登山、スキーといったアクティビティを目玉にしているところも増えてきましたし、居住者たちが自主運営でサークル活動を行ったり、お祭りをはじめとした地域のイベントを企画しているケースも増えてきました。こういった地域社会への参加が、無理なくできるような受け皿があるのもCCRCの特徴です。
施設に入所する場合とは異なり、高齢者同士だけでなく、様々な世代との交流・共働する機会も増えます。経験や専門性を活かして地域貢献をしたり、趣味を軸として知己を広めていけたり、新たな交友関係が生まれる可能性も高まります。当然のことながら、予防医療や健康支援についてのサービスも提供されますし、健康寿命の延伸という観点からも、首都圏より恵まれた条件が整っているといえるでしょう。
単独での移住ではなく、コミュニティを通じて地域に溶け込むことができるので、ひと頃ブームとなった、定年後の田舎暮らしのように、移り住んでもなかなか周囲となじめないという人間関係作りの難しさに悩むこともそれほど感じなくて済むはずです。
物価などの生活コストも東京と比べて低いので、年金生活となっても暮らしやすいといえますし、自然環境に恵まれ、ストレスが緩和されるといった点も挙げられるでしょう。
希望者にはなかなか見えにくいデメリット
とはいえ、デメリットもないわけではありません。地方や地域の全体がCCRCとなるわけではないので、住居の戸数にも限界があります。また、自治体ごとに特別養護老人ホームの総量を規制しているケースもあります。人気のある地方・地域では入居のための抽選倍率も上がるでしょう。逆に、首都圏から高齢者が大挙移住してきたがゆえに、地域の高齢者が入所できない、施設を利用できないという状況も想定されます。
こうなると、移住者と地域住民の関係もギクシャクするでしょうし、コミュニティとしての体をなさなくなってしまいます。前述した杉並区の例のように、入居者数もある程度の案分をするなど、状況や地域性に応じた対応が必要となってきます。
居住者サイドで考えると、趣味も特にない、誇れる経験も専門性も特にないという場合、その方のパーソナリティにもよると思いますが、地域社会との接点を見出しにくいかもしれません。特に日本人は、社交性に関してはいささか控え目な点も否めません。そうなると、CCRCに居住する意味合いも薄れてしまいます。
必要なのはトライアル期間での検討・選択
すべての人にCCRCが適しているというわけではありません。生まれ育った土地を離れたくないという思いは、多くの方が共通して持っているでしょう。子供や孫たちの近くで暮らしたい、一緒に暮らしたい、という思いも、極めて当然のことです。あらゆる課題や思いを天秤にかけながら、CCRCに移り住むことがベターなのかどうか、それを考える必要があることはいうまでもありません。心情的な側面も考慮しながら、じっくりと選択することこそ、本当に成熟したCCRCを築く上で大切なのではないでしょうか。
移住のサポートや相談窓口を行っている法人やNPO、事前にどのような地方・地域なのかを紹介してくれるだけ自治体もあります。しかし、気候や風土が合うかどうかも大きなファクターといえるでしょう。数字やデータだけでは見えてこないこともあります。そこで、一定期間の「お試し居住」や現在の住環境との比較ができる「二地域居住」を考えているところもあります。政府の構想案でもミスマッチングを防ぐことを提唱していますし、そうでなければ日本版CCRC「生涯活躍のまち」の実現も発展もあり得ません。