厚生労働省職業安定局の「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」報告書が、6月5日に公表されました。
人口が 減少していく中でも、成長を実現していくためには、人材こそが我が国の最大の資源で あるという認識に立ち、年齢にかかわりなく働く意欲のある高年齢者が能力や経験を活かし、生涯現役で活躍し続けられる社会環境を整えていくことが必要です。このような生涯現役社会の実現のための道筋をより確かなものとすることを目指し、今後必要となる施策 の方向性について検討を行っていた厚生労働省職業安定局の「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」(座長は清家篤慶應義塾大学塾長)の報告書が、6月5日に公表されました。
報告書では、「健康で意欲的な高年齢者が、年齢にかかわりなく活躍し続けることにより、心身ともに豊かな暮らしを送っていくことが、ごく普通の当たり前のこととして受け止められるような社会こそ、目指すべき生涯現役社会の姿でなくてはならない。」(「はじめに」)とし、雇用就業対策の課題を5つ挙げています。
■企業における高齢者雇用の促進(65歳以降の雇用拡大、60歳前後で断絶しない人事管理)
第1は、企業における高年齢者の雇用の促進です。2004(平成16)年及び2012年の高年齢者雇用安定法の改正で、原則として希望者全員に、65歳までの雇用確保措置(定年制の廃止、定年年齢の65歳までの引上げ、65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置)を適用することが義務付けられました。
報告書では、60歳代前半層の就業率が上昇していることを評価したうえで、①定年制度が適用されず雇用確保措置の対象とならない、非正規労働者などへの対応、②65歳以降の雇用拡大、③労働者の健康管理の重要性、④60歳までの人事管理とそれ以降の人事管理を断絶させずに、労働者の能力を継続的・持続的に発揮できるような仕組みの導入、等を課題に挙げています。
■職業生活設計と能力開発の支援(自発的な職業生活設計の支援)
第2は、職業生活設計と能力開発の支援です。①高齢期に入る前の段階から、全職業生活を展望したキャリア形成ができるよう、労働者の自発的な職業生活設計とそれに対する企業支援(企業内でのキャリアコンサルティングやジョブカードの活用支援)、②企業横断的なエンプロイアビリティ(転職しても雇用される能力)を身につけることの重要性(公的職業訓練、企業訓練、自己啓発の併用)、などを挙げています。
■中高年齢者の再就職の支援(自発的なキャリアチェンジの支援)
第3は、中高年齢者の再就職の支援です。高年齢者の雇用を促進するためには、継続雇用の促進だけでなく、中高年齢者の再就職の推進も必要としつつ、生涯現役社会実現のためには、企業内でできるだけ長く働き続ける場を作ることがまず重要で、中高年齢者の再就職支援が雇用を流動化させ不安定化させるものであってはならないと強調しています。
すなわち、自発的にキャリアチェンジを選択した場合に、それに対する適切な支援を用意するという視点が大切とし、今後、出向・移籍など中年期以降に再就職しやすい環境整備を図りつつ、ハローワークによる再就職支援の取組みの強化と合わせ、民間人材事業者の活用が必要としています。また、現在の雇用保険制度では、65歳以降に雇用された者は適用対象外になっていますが、この適用年齢を今後どうするかの検討も必要としています。
■地域関係者のネットワークによる、地域での多様な雇用・就業機会の確保
第4は、地域における多様な雇用・就業機会の確保です。千葉県柏市では、市役所・東京大学・UR都市機構(都市再生機構)などが中核となって、高年齢者が活躍できる農・食・保育・福祉などの仕事を新たに作り出し、これを、セミナーなどを通じて登録した企業退職者等に提供する、という事業を立ち上げ、大きな成果を挙げていますが、こうした高年齢者の多様な就業ニーズに対応したシステム構築を全国で広げていくべきだと提言しています。そして、そのためには、地方自治体の積極的関与による地域関係機関のネットワーク構築が重要で、それを国がバックアップする体制構築が必要としています。
■シルバー人材センターの機能強化
第5は、定年退職後等において、臨時的かつ短期的又は軽易な就業(いわゆる「臨・短・軽」要件での就業)を希望する高年齢者に対して、地域の日常生活に密着した仕事を提供する公益的な団体であるシルバー人材センターの機能強化です。65歳以上の労働力率上昇、企業等からの需要増大、会員(2015年3月で73万人)からのもっと働きたいとの強い要望などを踏まえ、「臨・短・軽」要件の緩和の検討や派遣事業や職業紹介事業への積極的対応が必要としています。
以上のように、本研究会報告は、今後の中高年齢者雇用就業政策の方向性を提示した重要な報告書です。本報告をたたき台にして、生涯現役社会をいかに実現していくか、活発な議論の展開が期待されます。