老後を安心して暮らせるコミュニティ
最近、「CCRC」という単語を目にする機会が増えました。これはContinuing Care Retirement Communityの頭文字。もともとは、1970年代のアメリカで始まった考え方で、高齢者が健康なうちに入居し、継続的なケアの提供によって、生涯を過ごすことのできる共同体を意味しています。
老人ホームなどの高齢者施設との違いは、健康な状態でもそこに居住することができるという点。さらに、施設に入るというのではなく、その地域に移り住むという点も挙げられるでしょう。商業施設、娯楽施設、医療施設の整った「街」レベルのCCRCも珍しくはありません。いまや、全米で約2,000ヵ所、居住者は約70万人にも及んでいます。
日本版CCRCへの取り組みの現状
日本でも民間や自治体が、2010年頃からCCRCの取り組みをスタートしています。中でも千葉市稲毛区の「スマートコミュニティ稲毛」は、分譲型マンションに約700名が暮らし、クラブハウス・娯楽施設併用のコミュニティ施設は約1,000人が同時に過ごせる規模。自他共に認める日本最大級のCCRCです。
また、東京都杉並区は静岡県や同県南伊豆町と自治体間連携による特別養護老人ホームの整備を開始。都道府県域を越えた整備は全国初であり、町有地に100人定員の施設の建設を計画しています。開設は18年1月頃の予定。定員の半数程度は杉並区民が入所することを想定しているそうです。
自治体間連携でいえば、東京都豊島区も姉妹都市の埼玉県秩父市とCCRC構想を進めており、こういうケースは今後も増えるでしょう。
また、山梨県都留市では、市内の各大学との連携を軸としたCCRC構想をまちづくりの中心に据え、新潟県南魚沼市は市内の国際大学約40ヘクタールの敷地に200戸、400人が暮らす街を建設する計画を進めているなど、他とは差別化をはかった独自色の強い取り組みも随所で見受けられるようになってきました。
政府も日本版CCRC構想を推進するべく「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を2014年12月27日に閣議決定。翌年2月には「日本版CCRC構想有識者会議」が発足し、日本版CCRCを「生涯活躍のまち」と名付けて地方創生の一環に位置づけ、日本版CCRC立ち上げに向けた37事業(5県32市町村)を支援金交付の対象として選定するなど、動きが本格化してきました。
首都圏・地方の双方に大きなメリット
その背景には、首都圏人口の急速な高齢化と地方からの高齢者の流入があります。特に75 歳以上の後期高齢者は、2025 年までの10 年間で約175 万人増えると予想され、医療・介護ニーズが大幅に拡大することは明らかです。それに伴い、医療介護に携わる人材不足も懸念されています。つまり、CCRCは人口の分散化や首都圏の医療・介護ニーズの負担軽減にも重要な意味を持っているのです。
一方、地方にとっては、CCRCの誘致ができれば、大きなメリットが生まれます。医療施設や介護施設など、自治体予算だけでは建設や運営が難しい場合もあり、それを医療・社会福祉法人や民間企業・NPOなどが肩代わりする形になるので、負担が軽減されるばかりか、地域住民にとっても安心して暮らせる環境になることはいうまでもありません。
さらに、CCRCの居住者や施設の職員たちが、食料品や日用品などを購入したり、家族が面会に来ることで消費拡大につながり、地域の経済効果も十分に見込めます。同時に施設や関連企業における雇用の創出にもつながります。いわば、その地域の活性化策…新たなスタイルの町おこし・村おこしとしての期待も集めているのです。
・【第2回】CCRCのメリット・デメリット
・【第3回】CCRCで失敗しない5つの目安
・【第4回】自治体が進めるCCRC