日常に潜む情報通信技術の罠 -ペーパレスの日常-

巷では対話型AIのChatGPT*1で盛り上がっていますが、今月は1泊4日で出張してきたドバイでのパーパレスの日常に絡んだ情報通信技術の罠について紹介したいと存じます。
ドバイはアラブ首長国連邦ドバイ首長国の中心都市で、世界一の超高層ビルや世界最大のショッピングモールがあります。日本との時差は5時間、フライトは11時間です。

入国審査

日本でも入国審査は顔写真で簡単にできるようになっていますが、ドバイでも同様だと思っていました。しかしそうは問屋が卸しませんでした。「目を開け」といわれて一生懸命目を瞠るのですが、だめで「別の場所に行け」と指示されました。そこでは「親指と人差し指で大きく目を開け」と指示され、何回かやってやっとパスできました。ドバイは顔認証ではなく、網膜認証なのです。出国審査でも同様に親指と人差し指で眼を開いて、何とか通過できました。

名刺交換

コロナ禍で対面会議がほぼなくなり、名刺交換する場面がほぼなくなりましたが、今回の出張では大学などいろいろなところに訪問するので、張り切って名刺を持っていきました。しかし大学では名刺交換しましたものの、他の機関では結局メッセージアプリWhatsapp*2を使っての個人情報交換でした。

搭乗券の半券

航空機を使用した出張清算には、領収書と搭乗券の半券が求められます。最近国内で搭乗するときには、スマホのウオレットに登録した搭乗券をスキャンすると、半券が出力されます。しかし在宅勤務が定常となっていると、その半券を郵送せねばならず、面倒です。紙の半券の代わりに航空会社が発行する搭乗証明書のPDF送付でOKのところもあります。
海外出張の場合には、半券はないので、代わりに搭乗券を提出してきました。オンラインチェックインをすると、搭乗券はPDFで取得でき、それをスマホで提示して搭乗できます。その搭乗券のPDFで済まそうと思ったのですが、今回の出張精算では、紙の半券が必要といわれてしまいましたので、出張先でPDFを印刷してもらおうとしました。が、ペーパレスオフィスなので、「プリンタはない」とのことでした。徹底しています。

Dubay Tech Lecture

今回の出張は10月のコラムで紹介した内閣府の9つのムーンショット目標の目標1に関係したものでした。その一環で、現地時刻3月9日に写真1にある巨大な勾玉のような未来博物館での講演*3が予定されていました。その開催が19時から21時と決まったのは、開催の1週間前でした。1週間前にネットで公開して、しかも平日の19時からと遅い開催で、果たして聴衆は集まるかと心配でした。

写真1:ドバイの未来博物館(The Museum of the Future):地下鉄駅・ホテル・モールとつながっています

筆者は講演しなかったのですが、プレゼン準備で18:30に未来博物館のホール前に集合しました。18:30になっても前の会議が終わらないので会場に入れずにいると、聴衆も徐々に集まってきます。その場所は地下鉄駅と未来博物館・ホテルの3本の通路が交差する場所で、邪魔になるので、係員が、「前の会議が遅れているから15分ぐらい過ぎてから戻ってきて」と声を掛けます。15分遅れでホールに準備で入れましたが、前の片づけと並行して準備をして、ようやく19:20ぐらいに聴衆がホールに入れるようになりました。
講演は開始しましたが、300インチのLEDディスプレイに、肝心のスライドが表示されません。講演者の大阪芸術大学萩田教授が、「私のスライドはどこへ行ったのか?」というと、フロアの聴衆から「未来に行った」と、未来博物館にかけた応答があり、会場の笑いを誘っていました。ちょっとしたトラブルはありましたが、最終的には約200人

の聴衆が集まり、終了後も多くの聴衆が質問や講演者との2ショット撮影に集まっていました。
1枚の紙も配らず使わず、1週間で、これだけの聴衆が集まるのは、ドバイのペーパレス化が日常であることの証拠と感銘した次第です。

ドバイモール

写真2:ブルジュ・ハリファと噴水(右下)

3月10日午前に会議は終了し、11日2:55発のフライトまでは時間があるので、夕食を食べに地下鉄(といっても地上を運転)1駅のドバイモールに向かいました。駅についてからモールの入り口までかなり歩きますが、モールも広く、本当にたくさん歩かないと目的地につきません。さらにラマダン明けの金曜日の日没後とあって、ものすごい人込みでした。
フードモールでは大ジョッキ生ビールが約1,200円で高価です。夕食後、世界一の高さ828mのブルジュ・ハリファと噴水とのコラボショーを見学できました(写真2)。プロジェクションマッピングではなく、ビル自体に供えられたレーザーやLEDにより右下にある噴水とコラボして、世界のデザイナがデザインした光と動画と音楽が上演されます。どれだけの電力を使っているのかと思っていたら、ビルにSDGsと表示され、苦笑してしまいました。

(2023年3月)

*1 ChatGPT:
GPT(Generative Pretrained Transformer)という大規模言語モデルに基づくサービスです。質問への回答だけでなく、小説や簡単なプログラムなどの作成、翻訳なども行えます。
https://openai.com/blog/chatgpt
*2:Whatsapp:
メタ・プラットフォームズが所有するアメリカのフリーウェア
https://www.whatsapp.com/?lang=ja
*3:未来博物館での講演:
https://mediaoffice.ae/en/news/2023/March/15-03/Museum-of-the-Future


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。